カイロンとバーチャルな傷

占星術

 

以前にも少しカイロンについて書きました。カイロン(キロン、ケイロン)というのは、土星と天王星の間にある小惑星です。軌道を一周するのにだいたい50年前後かかりますが、軌道が楕円形なため、カイロンが生まれたときの位置に戻ってくるカイロンリターンは人によって若干違います。私はちょうど今カイロンリターン。そんなわけで、ちょこちょことカイロンについて調べていたら、ある本を読んで「目からウロコ」でした。

カイロンというのは、ギリシャ神話に出てくる半人半馬のケンタウロス族の賢人です。神クロノスが馬に化けて、ニンフ(精霊)であるピュリラーと交わってできた子ども。クロノスにとっては単なる浮気の結果だし、母親であるピュリラーは下半身が馬の姿をした我が子を見てショックを受け、菩提樹になってしまいます。カイロンは捨て子となり、アポロンとアルテミスに育てられるわけですが、親に捨てられたことから、カイロンは傷やトラウマと結びつけられます。

神々に育てられたカイロンは、医術、音楽、占星術、弓術などを学び、ほかの野蛮なケンタウロスたちと違って賢人となり、多くの弟子を育てました。けれども、あるとき、ほかのケンタウロスたちと、弟子の一人であるヘラクレスが乱闘騒ぎになったとき、ヘラクレスの放った毒矢がカイロンにたまたま当たってしまったのです。神クロノスの血を引くカイロンは不死を与えられているので、苦しくても死ぬに死ねません。また、医術で多くの人を助けてきても、自分自身を癒すことはできませんでした。結局、人間に火を与えた罪で囚われていたプロメテウスと引き換えに冥界に下ることで、カイロンは苦しみから解放されたのでした。

さて、この本に書かれていて、ものすごく腑に落ちたこと。それは、注目すべきはヘラクレスは決してカイロンを傷つけようとしたわけではなく、間違って当たってしまっただけなのに、結果としてカイロンはいつまでも苦しむ羽目になったということです。これは、カイロンに象徴されるような心の傷やトラウマは、実は傷つけた側は、傷つけようなんて意図はまったくなかったかもしれないということを表しているのではないかと。

人から言われたり、されたりしたことに傷ついて、いつまでも尾を引くことってあるものです。でもそれは、誰かが自分にした行為に対して、「そう言われた(された)のは、自分がダメな人間だから」とか「自分が嫌われているから」とか、勝手に思って、傷の痛みを増幅させている可能性だってあるはず。実は相手は、悪意なんてまったくなかったかもしれないのに。言ってみれば、バーチャルな傷みたいなもの。冥王星もよくトラウマと関連付けられますが、カイロンの方は、実際に何かがあったにしろ、なかったにしろ、自分の中で増幅させているというのが、冥王星との違いなのかもしれません。

じゃあ、それは単に気にしすぎなのだ、と片付けてしまえるかというと、それは違うのです。相手の悪意は実際にはなかったとしても、自分の心の痛みは本当なのだから。ヒーラーであるカイロンの傷。それは、自分の傷を治すことによって、その技を同じような傷で苦しんでいる人たちのために役立てる必要があるのです。それは、カイロンが苦しみを終わらせるために冥界に下ったように、自らの心の奥深くに入っていくことで見出せるのかもしれません。