今度は今度、今は今

映画, 雑記

新しい年になりました。先月は、6年ぶりに風邪らしい風邪を引き、38度台の熱が3日続いて熱を出したりしてサボったので、久々の更新です。

新年早々、痛ましいニュースが報じられていますが、いつ何が起こるかは本当には誰にもわからないのだとしみじみ感じます。

昨日は久々に映画館へ。『PERFECT DAYS』を観に行ってきました。監督のヴィム・ヴェンダースの作品はずいぶん久しぶり。20代のころはアート系の映画をよく観ていたので、ヴェンダースの『パリ・テキサス』や『ベルリン・天使の詩』など大好きでした。

ネタバレになるので映画の内容は詳しくは書きませんが、役所広司さん演じる主人公、平山の日常が淡々とつづられています。おそらく、「この映画の何がいいのか、さっぱりわからない」という人も少なくないでしょう。口数の少ない独身の平山は、トイレの清掃員で、テレビすらない風呂なしボロアパートに住み、古本屋で100円で買う文庫本の小説を読み、古いカセットテープで昔の洋楽を聴く、という日常を繰り返しています。そんな中でも、一瞬一瞬形を変える木漏れ日を楽しんだり、ちょっとしたことに喜びを見出せる人物です。

思い返せば私自身、若いころに平山のような生活をしていたことがありました。インドと日本を行ったり来たりしていて、日本にはお金を稼ぎに帰るだけだったので、短期間では大した仕事につけるわけもなく、ハウスクリーニングや工場のラインの仕事をしたこともあるし、風呂なしアパートに住んだこともありました(その当時は平山よりも物を持っていませんでした)。それでも、若かったせいもあるかもしれないけれど、もしかしたら今より幸せだったかも、と思うこともあるのです。後になって、一部上場企業で働いたこともあったけれど、いろんな仕事をしてきた中で、半年だけでしたが、ハウスクリーニングの仕事は楽しかった。変わり者の多い職場で、車の中でおじさんたちの面白い話を聞きながら現場に行ったり、同じバイトの女の子と仕事帰りに公園で缶ビールを飲んだり。翻訳の仕事をするようになってから、仕事が終わってから本を読むのは頭が疲れ切っていてしんどくなったのですが、当時は肉体労働だったので、仕事が終わってから本がたくさん読めました。お金も物もなかったけれど、そんな平和な時間を味わっていたものでした。

今はNaadでのセッションのほかに、週に1,2日お店での占い鑑定をやっています。商業施設に入っているお店なので、客層は幅広く、80代の高齢者や自衛隊員の男性など、私が個人でやっているセッションを受けることは絶対にないだろうという人たちも来てくれます。要は、とても勉強になるのです。

たまにお客さんから「幸せになれますか?」というご質問を受けることがありますが、それはその人の「幸せ」の定義によるでしょう。ご高齢の方とお話をしていてよく思うのは、裕福なら幸せというわけでもないんだなということです(広く世間を見渡してもそう思いますが)。働かずに十分暮らしていけるほどお金があっても、口から出てくるのは愚痴や心配ばかりという人もいます。まあ、人間、暇だとろくなことを考えないのでしょうね。一方で、生活に金銭的な不安は多少あっても、仕事や趣味をそれなりに楽しんでいたり、ボランティアをやっていたりする高齢者は穏やかで、わりと幸せそうに見えます。

映画の主人公、平山も、平和な毎日を送っているというわけでもなく、腹立たしいことやショックなことも起きれば、長年の家族との確執もあります。それでも、人とのちょっとしたやり取りを通じて、フッと軽くなっていくのです。最後のシーンの、平山の泣いているような笑っているような顔が印象的でした。

映画の中で「今度は今度、今は今」というセリフが出てきます。私たちは先のことばかり考えて今を疎かにしがち。幸せや豊かさとは、人生の悲喜こもごもを味わえる能力から生まれるのかもしれません。

人生がすべて運命で決まっているのかといえば、性別や生まれた環境などのように、決まっているものもあれば、自分で選べるものもあるでしょう。手持ちの駒は決まっているかもしれないけれど、それをどう使うかは自分次第。幸せであるには、手持ちの駒を最大限に活かすべく努力することも大事だけれど、足ることを知ることも大事。そうでなければ、青い鳥をひたすら追い続けることになりかねないでしょう。

余談ですけど、映画を観に行ったときに、ネットで予約した回が、映写機が故障したとかで中止になってしまいました。仕方なく、別のスクリーンの次の回で観たのですが、これも途中で音声が5分ほど途切れるというアクシデントが(一瞬、「まさか、こういう演出!?」と思ってしまいました(笑))。幸い、おそらくBGMが流れているであろうセリフのないシーンだったので、筋を追うのに支障はありませんでしたが、別の日に無料で観れる招待券をいただきました。この出来事を「お正月からさんざんな目に遭った」と思うのか、「3時間もヒマ潰しているあいだに、カフェでゆっくり読書できたし、本屋で気になっていた本の立ち読みもできた」と思うかどうかで、幸せになれるかどうかは決まってくるのでしょう。私は後者を選びました。幸せになりたいのなら、まずは今この瞬間に幸せを見つけるということですね。この映画をいいと思える自分でよかった。